紙
デザインにおいて「紙」は単なる印刷の媒体ではなく、情報や感情を伝える“語り手”でもある。特に最近手に取ったある展覧会のフライヤーは、紙質そのものが印象を決定づけていた。ざらっとした未塗工紙(マット紙)を使用しており、表面に細かい繊維の起伏が残されていた。その手触りが、展示のテーマである「記憶と痕跡」というコンセプトと強く呼応していた。
光沢のあるコート紙と比べると、未塗工紙はインクの乗りが柔らかく、色が沈んで見える傾向があるが、それゆえに写真や図版の“曖昧さ”や“距離感”を表現するのに適している。また、紙に厚みがあることで、ページをめくる動作そのものが丁寧になり、鑑賞者のリズムに変化をもたらす。
紙の選定は、視覚と触覚の両方に働きかけ、デザインの雰囲気を根底から支える重要な要素であるとあらためて実感した。印刷の内容だけでなく、“どう触れるか”“どう記憶されるか”まで考慮することが、平面デザインにおける体験の豊かさを決定づけるのだ。
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